焦燥
#539「戦の相手」
朱海平原傅付け目の戦いが終わった。
趙軍本陣の李牧は腰を上げてどこかに行こうとする。カイネが聞くと、堯雲の所だという。右翼では馬呈が荒れていた。秦軍ののらりくらりとした動きを捕まえられず、苛立って部下にも八つ当たりする。
秦左翼の蒙恬は戦力で勝る紀彗軍にたいして狙った通りの膠着状態に持ち込んだ結果であった。剛に対して柔で戦った秦左翼。
一方の秦右翼では玉鳳隊が亜光軍から歓声と共に迎えられた。番陽が戸惑うと、関常は亜光兵は戦の目が肥えている。だから、今日、若がやったことの凄さを理解しているのだと。
《 秦右翼軍は王賁とそれに呼応した亜光軍により、趙将・馬南慈の首級こそ逃したものの、その軍を徹底的に叩いた。 馬南慈軍は再起不能なほどの打撃を受けた。》
亜光兵の喜びに関常はやはり若の活躍だからと知っていた。疎外されるがごとく初陣時から王翦軍の外に出され活躍の場を軍内に与えられなかった不遇の後継者の若がこの大一番で本家王翦様のお株を奪うような戦略を練り、戦果を挙げたのだから。
亜光将軍が王賁の前にやってきた。お見事と一言。
しかし浮かれてはいけませぬと亜光が言う。王賁も誰が浮かれるか、凹ませた分を李牧は手を打ってくるという。 亜光もおっしゃる通りだと頷く。傷の手当てをされたら我が本陣へ、直ぐに軍略会議を始めますと二人とも明日の戦いに備える。
中央軍にいる主人公たちは…、出番なしで苛立っていた。 尾平は出番なしで苛立つが、昴が出番なしでも勝ってたら楽でいいと言ったでしょとツッコミが入る。尾平が昴を小突き始める。
我呂はカメの歩兵と違い、騎兵の俺たちは李牧を追い詰めたと言う。 亀と言われ、歩兵隊長の崇源が食ってかかる。言葉の綾だと我呂は言うが、崇源はどういう意味か言ってみろと食い下がる。 険悪な空気になり、皆が不安がる。尾平が割って入り、宥めようとする。
が、松左が火をくべてしまう。俺も気になる、勇んで出て行って武功なく戻った精鋭騎兵様がどういう気持ちで俺らを亀呼ばわりしてんのかと。 田永が松左にキレる。昨日の俺らがどんだけひでぇ乱戦で戦果を挙げたと思ってんだと。松左が古参の君がいまではそっち側ですかとからかう。怒りが募ってきた田永。
火種が導火線に続こうとする時、隊長がうるせえと一括して殴る。 松左はかわす。殴られたのは田永。
「出番がないので荒れてるのは分かるが新人たちの前でしょうもねぇ姿みせてんじゃねえぞ、てめぇら。 どんだけ場数こなしてきてんだ。こういう戦いもあんだろーが! ぜってー俺らにもでっけぇ見せ場が来る。
だから、そん時まで大人な感じで…待機しとくんだ。」
バカヤロオと吼えて机を蹴り上げる信。王翦のバカヤロオとまで吼える。 松左はあいつはマジでキレているわと呟く。田永も今日また王賁が閼訳したって聞いてさらに荒れてやがると言う。
険悪な空気がすぐに晴れた。新兵達は今のは冗談だったのですかと問う。松左は半分はねと答える。我呂もヒマだからと言う。 松左が新人達にこんな大戦での生殺しはお前らにもナカナカだろうと話す。
新兵は俺らは列尾での不格好な一戦しか経験していないんで、次はぜってぇやってやると気合を入れてるのに、戦場すら見えない場所で待機ってのは緊張の糸が切れねえようにしないといけないと言う。
崇源が肩の力は抜いていいが士気だけは高く保っておけという。王翦将軍の一声で一気に大激戦に放り込まれるぞと檄を飛ばす。新兵達が応じる中、弓矢兄弟が複雑な顔になっていた。
河了貂がご飯の時間だと皆に伝える。真っ先に羌瘣がやってきた。 皆がご飯を食べるが、いつもより量が少ないとの声が挙がる。 気づかれたと貂が思う。信がお代わりを言うが貂は無いと断る。
貂は信に実はさっき王翦将軍から三日分の食料が送られてきたが、兵糧を絞ってきたと言う。信が声を出すと、貂は声がでかい、楚水もこういうことはまだ兵達に知らせぬ方が賢明ですと隊長の不用意さを止める。
まだ二日目なのにもう食糧が無くなってきたのかと信が言う。貂はそうじゃないけれどやはり麻鉱が死んだのが関係していると思うと私見を語る。 左翼は蒙恬が持たせているが、やはり王翦将軍は出鼻をくじかれたに違いない。 楚水も勝つにはこの戦いは想定した以上に長引かざるを得ないと言う。楚水の解説で腑に落ちた信。
秦軍の食糧は減ることはあっても増えることはない。日数が伸びるのであれば食べる量を減らして調整するしかない。
貂の解説で信も戦略を知る。初日から李牧がド派手な動きすっからすっかり忘れていた。この戦いは兵糧との戦いでもあったってことを。
【 撩陽 】
伝者が壁の幕舎に駆け込む。 起こされた壁は仰天し、とある場所に必死で馬を走らせた。
護りの軍にも通常の軍にも引っかからずに…
あり得ぬ、誤報だ。そんなことが起こるわけがない。
我々の…
壁軍の食糧庫が焼かれるなどと……
馬を走らせつつ最悪の予想を払しょくしていく壁だが、着いた先の光景は…、
⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ショ…食糧庫炎上――アワ((゚゚дд゚゚ ))ワワ!!―!!!
眼前の炎に愕然とする壁。 地下道から悠々と下がる舜水樹たちがいる
信の言葉が壁のフラグだったとは。。。
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