近況報告
#550「期限の知らせ」
乱戦の夜
楚水は郭備隊以来の曹火を看取っていた。 最後に曹火は戦友たちの見守る中で郭備様に長い土産話ができた、皆済まぬ先にと言って息を引き取った。 部下達の悲しみに付き合えず、次に黄丁も間もなくなのでそちらに向かう。部下たちは楚水副長の手当てを先にさせようとするが、楚水はそんなものは後でいいと撥ねつけた。
騎兵以上に歩兵の損害は更に酷かった。
隣にいた仲間がいないとしきりに名を呼ぶ声が止まらない。見つけても躯(白多)になっている。隊に誘った友達のイ厘に先立たれて泣いている兵。
干斗も見失った能村出の平来を探していた。仲間に聞いても逆に土近を知らないかと聞かれる。 だが運よく、干斗は平来を見つけて無事を喜ぶ抱き合う。また、告も兄の角を見つけて無事を喜び泣く。 ➡(p_q*)朝に元気だった仲間を昼には失う。万国共通の戦場の悲惨さであります。
青半、介五十長は戦死。山座隊半減。被害報告が続々と集まる飛信隊本陣では河了貂が戦力把握を一手に行っていた。
生き残り組で尾平がずっと死んだフリしてただろうと言われる。一瞬だと抗弁する尾平は昴に相乗りを求める。が、昴は先に寝てていいかな、寒いと言う。 ノリが良くない、顔が悪い昴がいきなり倒れる。 凄い熱だと尾平は何で早く言わないと叱るが、直ぐに幕舎へ連れていく。 それを休みながら見ている崇源。隣で飲んでいる松左。
朱海平原三日目は――秦軍右翼と趙軍左翼の戦いの火と言ってよかった。
中でも激しかったのは互いに新戦力として登場した堯雲軍と飛信隊の直接対決であった
趙軍総大将・李牧の思惑からすると三日目に一気に右の戦局を趙に傾けんと送り込まれた堯雲軍一万に対し、序盤こそやりこまれたが最後は互いに巻き返し互角に近い戦果でこの日を終えた飛信隊は李牧の大いなる一手を見事にくじいいたと言っていい。
だが、やはりその代償は決して小さいものではなかった。
幕舎で寝ている羌瘣。 そこに信が這ってやってきた。 力尽きたから肩を貸してくれと信。羌瘣は私も体が動かないと断る。仕方ねえと自力で這って羌瘣の幕舎へ入る。勝手に来てその言い草と流石に呆れる。
体中が痛いのかくねくね動く信。動きが気持ち悪いなと羌瘣。 信は‟大炎”の場所が分かっててお前に丸投げしちまったと詫びる。
我呂が驚いていた、あの場で策を作って逆に狩場にしたのはとんでもねえ武将だと言っていたと。その乱戦場で歩兵に交じって限界まで斬りまくったお前に俺のところの歩兵までぞっこんだぞと信は羌瘣に話す。
だがそのおかげでお前はそんな有様で…いつも済まねえなと信は羌瘣に言う。そんな下らない話をわざわざ這ってまでしに来たのかと羌瘣は問う。 別にいい、どうせ同じ寝るだけならお前と話しながらの方がいいと信は言う。尾平や貂相手はうるせーしなと笑う。
そんな信を見て羌瘣は聞いていた以上の深手だと言う。信も嗚呼、堯雲もヤロォ流石だったぜ、全身ボロボロにやられたと言う。 だが、信はまー次は俺が楽勝で勝つと笑う。そんな信に羌瘣は手をと言う。
羌瘣は信と手をつなぐ。戸惑う信に羌瘣は蚩尤族には色んな術が伝わっていると話し始める。
最もこれは術というよりまじないの類だと思うが…、手と手を合わせて命の力を少しだけ分けて相手に与えるものだと。 思わぬ羌瘣の行為にビックリして信は手を放す。バカか、いるかよ、お前の方こそボロッボロなのにと。安心しろと羌瘣が瞑目したまま答える。今のは力を吸い取る術だとかます。
「朱海平原で開戦してまだ三日だが緑穂が日に日に緊張を増していく。きっと…この戦いは…私達が死力を尽くしきらないと勝てないんだと思う。」 信も同感だった。
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【趙軍左翼幕舎】
馬南慈、岳嬰、趙峩龍が座しているが、堯雲のみ立って星を見上げていた。
堯雲は起こりがたきことが立て続けに起きていると言う。
- 初日は秦左翼の蒙恬五千将が決定的敗局を挽回し左翼の命を繋ぎ止めた
- 二日目は玉凰隊王賁が趙峩龍の狙いの裏をかき馬南慈軍を弱体化する程に攻勢をかけた
- そして今日は飛信隊が我が軍の猛攻を受け止めた。
岳嬰は眼中になく注視されてなかった五千将如きが調子に乗っているだけだと一蹴する。だが堯雲は侮るなと言う。あの六将達もかつては五千将であり三千将であり百将でもあったのだと。
堯雲の言葉に岳嬰は何が言いたい、よもやそいつらがと問う。趙峩龍もまた飛信隊信に何か感じたのかと問う。
堯雲は飛信隊信と副長羌瘣は粗削りだが両人共に俺にかつての六将を思い起こさせたと答える。 二人もと趙は言えば、ケッと岳嬰は舌を鳴らす。フッと失笑する馬南慈はならばそういう逸材をここで叩けばよいという話だと言って、肉をしゃぶる。その通りと堯雲も肯定する。
「趙側にとっての最悪の展開は信・羌瘣・王賁・蒙恬の四人全員が本当にその素質があり六将級に成長されること。
そして秦側にとっての最悪の展開はその四人に加えて王翦・桓騎・楊端和この七人をこの王都圏の戦いで一気に全員失うこと!」 三人の顔が一変した。
「そうなれば秦国の武力は正直半減どころの話ではない、つまりこれはこの先の中華の歴史を大きく左右するほどの戦だ」 堯雲は主・藺相如の思惑がようやく見えてきたと趙峩龍に語る。我ら二人は秦の暴威を挫くべくあの時代に放たれた必殺の矢だと言う。黙しても笑みが浮かぶ趙峩龍。
岳嬰が気に入らんと話を挟む。まるでこの戦をあんたら二人で勝たせるような口ぶりだと。 そう感じたのなら許せと堯雲は岳嬰に謝る。 少々高揚していると言う岳嬰はだが俺も趙峩龍も単なる刃の一つだと。骨ごと肉を喰らう馬南慈。
「この戦いを勝利に導くのは無論。歴代最強の三大天李牧様だ」 趙軍中央軍大本営本陣にてその李牧は鄴からの知らせが来たことを知る。
李牧は‟期限”の知らせだと言う。 カイネと傅抵は分からない。 金毛が数万の難民を飲み込んだ鄴の食糧があと何日持つのかという期限、鄴に早々に計算して知らせよと伝えていたと言う。
ようやく届いた知らせに傅抵がその期限までにここの王翦軍を倒して鄴を解放しにいかないと城が落ちるのかと言う。 李牧は逆に鄴の食糧が長く持ち補給の無い王翦軍の兵糧が先に尽きれば、自ずと何もせずに我らの勝ちだと言う。
カイネが列尾を越えた時の見張りの報告から割り出すとあと十五日分と言う。 が、傅抵は違う、あと十日だと訂正する。
「そう秦軍兵糧はあと十日で尽きる!」 金毛だけでなくその期日を知る本陣の面々は李牧がよむ鄴の報告結果を固唾をのんで待つ。李牧は言う。
「二十日です!」 露わになった圧倒的兵糧差の優位に趙本陣から声が挙がる。
( Д) ゚ ゚ 兵站の限界は戦略の限界であります。 さて王翦軍はこれをどう挽回するのでしょうか??
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