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#「最後の夜」

右翼が趙左翼を後退させた! 軍は趙左翼の宿営地を越えて尚も追撃している。敵の殿部隊を討ちながらまだまだ奥深く進撃する勢いである。伝者が王翦軍中央軍本営本陣にそう伝える。 どうか王翦様に至急お伝えをと言うと、王翦将軍がここにいると本陣から顔を見せた。 そして、幕僚の田里弥へ全軍出陣だと命じる。
 
 王翦将軍中央軍は朱海平原十二日目にしてようやく出陣する。 その数無傷の三万が満を持しての全軍前進であった。
 
 秦左翼本陣にも中央軍の前進が知らされた。全軍出陣に皆驚き、なぜと思う。蒙恬は左が膠着したままの中でなら、右翼の戦局が動いたからと言う。 部下が敵を撃破したのでしょうかと問う。 そこまで分からないけれど似た戦局になったから中央軍が動いたと考えるのが自然だと蒙恬は答える。爺副官が右翼は亜光を失ったと報告が来てるのにとにわかに信じがたい。故に王賁と信、あの二人がやったってことだと断言する。
                                
そこに急報が届く。馬呈が全戦を突破してここ本陣に迫ってきている。 日没近くにまだ戦うつもりかと苦言を部下が漏らす。 蒙恬は本陣の隊で馬呈を攪乱するぞとすぐに馬で向かう。大局が動きつつある今こそ左の膠着を続けることが重要だと叫ぶ。 駆けながら蒙恬は王賁と信によくやってくれたと心中で称える。左翼が紀彗軍を抜くのが難しいと踏んでいたので、これで朱海平原の勝敗は分からなくなったと思う。
 

 

この日 秦右翼は暗くなるまで敵左翼の背を追い大きく前線を押し上げた。それに伴い王翦将軍の中央軍は一気に中間位置まで前進し李牧の中央軍に近づいた。 翌日以降、右翼が趙左翼を撃破した瞬間に正面へ突撃する構えである。
                          
 🌓夜、飛信隊の陣で渕副長がよくやってくれたと皆をねぎらう。敵将は討てなかったが大勝利である、酒では無いが水で祝杯だぁあと叫ぶ。 兵達も皆歓声で応えた。
                   
 軍師貂が兵達を見回る。士気は高いままだがみんなが重傷を負っていた。その傷を士気の高さが忘れさせているが、どこかで必ず体力の限界が来る。今、無理している分その時は一気に総崩れになるかも知れないと不安を抱く。
                         
 🍔☕それに追い打ちをかけるように…今晩が最後の配給だ… 本当に最後の… 軍師の深刻な気持ちに隊長・信はおーいお前らー、最後の配給だぞーとあっさり言った。 隊長からでもその言葉は皆に流石に不安を思い出させる。 信は貂に今日はちょっとやり方を変えていーかと閃めく。
 

 

 飛信隊としての最後の配給は信の一案により配給所に並ぶのでは無く各隊ごとに集まり将校たちが手渡しにする形で行われた。➡ナイス!!!
            
 松左副歩兵長。沛狼から部下の夏礼、北巴、利歩らに食糧が手渡される。三人は勿論至る所でありがとうございますの声が響き渡る。去亥百将はお前ら皆食う元気ありそうだ、口減ってれば余り山分けできたのにと減らず口と共に部下に配給する。
                      
 渕副長は死んだと思っていた申覚に抱きついて喜ぶが、本人は嬉しさ半分ではやく食い物が欲しかった。尾平参什長も配給する。昴がさっき小便していなかったとツッコミ入れると、しっかり塩味だと答えて慶が嫌がる。
                 
  娘軍師がしっかりお湯で増やして食べてねと注意する。全部食べなくて平気な人は余分は自分でとっておく。もうこの先は自分の判断に任せると。 話を聞いた皆も少しだけにしようかと考えるが、いつもより十分小さいと気づく。
                          
  楚水副長からの配給を受けて喜ぶ兵達。 崇源歩兵長が今日はよくやったな、お前達に助けられた場面もあったと干斗達を褒めて配給食を渡す。喜ぶ干斗たちにできれば3日分くらいに分けて食えと言って去る。今日は食わなくていいくらいと言う者もいた。 羌瘣副長からもらう兵達は涙を流して喜んでいた。
                         
 そして、配り役となっていた古参の将校には今度は信が手渡しで配給した。 まず尾平に今日はありがとなと言って渡す。 尾平は泣いた。 崇源、田有、松左、田永、去亥、沛狼、澤圭、渕、楚水、岳嬰、我呂、竜川、竜有、中鉄、那貴、貂、羌瘣を最後に渡して信はありがとうなお前らと礼を言う。
                           
 尾平、渕が本当に最後みてえだと不吉だと言う。信はそうじゃない、みんなの今日の戦いぶりに本当に感謝したいんだと答える。新人達も矢を刺したまま走りまくっていたからと思い出して笑う。昴がそこは笑う所じゃないよと返す。
 信は王翦将軍も前に出てきていよいよ決戦の刻が近づいてきた。お前らには明日からも気合い入れて戦ってもらうことになると檄を入れる。 尾平とその什兵達は真っ先に応える。
                                            
 遠くから歓声が上がるのが聞こえる。玉鳳でも檄が始まったのだと古参兵達は気づいた。崇源が玉鳳も今日は王賁の檄で士気高まって奮戦したらしいと言う。 尾平に渕さんはうちらの士気爆発にはかなわねーけどなと言う。信は王賁の檄と聞いて少し微笑む。
                             
 貂が今日の“勝ち”はうちと同じくらい玉鳳も強かったからできたこと。今のこの右翼の主攻は間違いなく飛信隊・玉鳳でどちらかが欠けても駄目だと言う。 信は欠けはしねえさと言い切る。 さらにそこに王翦軍の力も合わさって…絶対李牧の首を取ると吼える!! 隊長の必勝の言葉に干斗たちは絶対に勝つと震えつつ誓う。

 

 趙中央軍本営本陣

 

 金毛将軍が頌次・上府は配置につき野営に入りましたと報告する。横の将軍も砂東も配置につき、これでほぼ陣形は完成しましたと報告する。
                 
 報告をもらうのは勿論、李牧。ようやくっすね中央軍もと傅抵が言う。よもや左が押し込まれてこちらが守勢に回る形になろうとはと老将が言うと、隣からも李牧様の助言で亜光を退場させておきながらと左翼の後退に苦言が出る。
 李牧は左翼の後退は賢明と言う。ここにきて敵が化けた、いよいよ玉鳳隊と飛信隊が侮れない存在となってきましたと説明する。 総大将の言葉にふっと笑った傅抵はカイネがいないことに気づく。李牧は尭雲達の元に伝令に出したと答える。また入れ知恵ですかと言ったら、叱られた。
                  
何もうろたえる必要はありません。尭雲達左翼は明日的右翼を撃破する力を十分に持っています。そうなれば前に出てきた王翦こそ我らの挟撃の的になります。
                    
 それに敵はほとんど兵糧が残っていません。 この絶対的有利がある限り我らが敗れることはありません。尭雲の左翼が抜ければ討って出て王翦を討つもよし、そうでなければただ守って連中が骨と皮だけになるのを待つもよし、
                  
いずれにせよこの戦いの勝者は私達です!  李牧は勝利を確信していた。

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